営業コックピットをZoho CRMで実装する
~キャンバス・ダッシュボード・ワークフロー・ブループリント・Zia Agentによる実践設計~

前回のコラムでは、「営業コックピット」という考え方についてご紹介しました。
CRMは顧客情報を蓄積する場所ではなく、営業担当が「今日何をすべきか」を判断するための場所であり、AIはその判断を支援する存在であるという設計思想です。
この考え方に共感していただいたお客様から、最近よくいただくご質問があります。
「その営業コックピットは、Zoho CRMで実際に作れるのでしょうか。」
答えは「はい」です。
ただし、キャンバスを導入すれば完成するわけでも、AIを有効にすれば実現できるわけでもありません。
営業コックピットは、一つの機能で作るものではなく、複数の機能がそれぞれの役割を担いながら、一つの仕組みとして設計するものです。
Zoho CRMには、画面を自由に設計できるキャンバス、状況を可視化するダッシュボード、業務を自動化するワークフロー、営業プロセスを管理するブループリント、そしてAIによる判断支援を行うZia Agentなど、多くの機能が用意されています。
機能だけを見ると非常に豊富ですが、その一方で「どれを使えばよいのか分からない」という声も少なくありません。
私たちは、機能から考えることはありません。
最初に考えるのは、「営業担当が朝CRMを開いたとき、どのような体験をしてほしいか」ということです。
営業担当はCRMを開いた瞬間に今日やるべきことが分かり、迷うことなく一日の行動を始められる。そして、必要なタイミングでシステムやAIが自然に支援してくれる。そのような流れを設計していくことが営業コックピットの考え方です。
今回は、その実装方法を具体的にご紹介したいと思います。
キャンバスは「画面をきれいにする機能」ではない
キャンバスという機能をご紹介すると、「画面デザインを自由に変更できる機能ですよね」という反応をいただくことがあります。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、私たちはキャンバスを「デザインツール」としてではなく、「情報を整理するツール」として考えています。
営業担当が商談画面を開いたとき、本当に最初に確認したい情報は何でしょうか。
おそらく、レコードIDや作成日時ではありません。
今日お客様へ電話すべきなのか、訪問予定はいつなのか、商談はどの段階にあり、次に何を行えば受注へ近づくのか。そのような情報ではないでしょうか。
ところが標準画面では、営業担当にとって重要な情報も、そうでない情報も同じように表示されています。もちろん必要な情報ではありますが、毎日利用する営業担当にとっては、必ずしも効率的とは言えません。
そこでキャンバスを利用します。
例えば、画面の最上部には商談名と商談ステージ、受注予定日、次回アクションを大きく表示します。その下には、次回訪問予定や最近の活動履歴、現在の提案状況を配置します。さらに画面右側には、お客様とのメール履歴や関連タスクをまとめて表示すれば、画面を切り替えることなく状況を把握できます。
一方で、作成日時や更新日時、システム管理用の項目など、営業担当が毎回確認する必要のない情報は画面下部や折りたたみ領域へ移動します。
画面のデザインを変更することが目的ではありません。
営業担当が「考える前に状況を理解できる画面」を作ることが目的なのです。
これは飛行機のコックピットと同じ考え方です。
操縦士の前には膨大な情報があります。しかし、離陸中、巡航中、着陸中では表示される情報の優先順位が異なります。必要な情報が必要な場所へ配置されているからこそ、操縦士は瞬時に判断できます。
営業担当も同じです。
CRMを開いてから数秒で状況を把握し、次の行動へ移れること。それがキャンバスに求められる役割だと私たちは考えています。
ダッシュボードは「経営者のため」だけのものではない
ダッシュボードというと、売上推移や受注件数をグラフで表示する機能という印象を持たれている方も多いと思います。
確かに経営者や営業責任者が会社全体の状況を把握するためには非常に便利な機能です。
しかし、営業コックピットという考え方では、ダッシュボードは営業担当にとっても非常に重要な存在になります。
営業担当が朝CRMへログインしたとき、最初に表示されるダッシュボードには何を表示すべきでしょうか。
私たちは、売上グラフよりも先に、「今日行動するための情報」を表示することをおすすめしています。
例えば、本日訪問予定のお客様、返信待ちになっているメール、提出期限が近い見積書、しばらく活動が止まっている商談、契約更新が近づいている顧客などです。
営業担当が一日に確認したい情報は、それほど多くありません。
むしろ情報が多すぎると、どこから見ればよいか分からなくなってしまいます。
ダッシュボードは情報を増やすための画面ではなく、情報を絞り込むための画面です。
営業担当は「今日何をするか」を知りたいのであり、経営会議で使うような分析資料を見たいわけではありません。
ここでも重要なのは、「誰のためのダッシュボードなのか」という視点です。
営業担当には営業担当のダッシュボードがあります。
営業マネージャーにはチーム全体を管理するダッシュボードがあります。
そして経営者には会社全体の業績やパイプラインを俯瞰するダッシュボードがあります。
同じダッシュボードという機能でも、利用者によって役割はまったく異なります。
私たちは、一つのダッシュボードですべての情報を見せようとは考えません。
必要な人へ、必要な情報だけを届ける。
その考え方こそが、営業コックピットを設計する上で最も重要なポイントだと考えています。
ワークフローは「考えなくてもよい仕事」を担当する
最近は生成AIへの注目が集まり、「AIが営業を変える」という言葉を耳にする機会も増えました。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、営業コックピットを設計する上で、私たちはAIよりも先に考えることがあります。
それがワークフローです。
営業活動には、判断が必要な仕事と、ルールが決まっている仕事が混在しています。
例えば、見積書を提出してから3日経過したらフォローする、契約更新日の30日前になったら担当者へ通知する、重要顧客から問い合わせがあったら営業責任者へ連絡するといった業務は、毎回同じルールで処理できます。
このような業務をAIへ判断させる必要はありません。
むしろ、人が考えなくてもシステムが確実に実行した方が、抜け漏れもなく、営業担当も安心してお客様とのコミュニケーションに集中できます。
ワークフローの役割は、「人の仕事を奪うこと」ではありません。
営業担当が判断に使う時間を増やすために、判断する必要のない仕事をシステムへ任せることです。
AIが注目される時代だからこそ、この役割分担はこれまで以上に重要になると感じています。
ブループリントは営業プロセスそのものを支える
ワークフローとよく混同される機能にブループリントがあります。
どちらも業務を仕組み化する機能ですが、役割は少し異なります。
ワークフローが「条件を満たしたら自動で処理を実行する仕組み」であるのに対し、ブループリントは「営業担当が決められたプロセスに沿って業務を進められるよう支援する仕組み」です。
例えば、新規商談では「初回訪問」「ヒアリング」「提案」「見積提出」「クロージング」という流れがあるとします。
営業経験が豊富な担当者であれば、自然と次にやるべきことが分かるかもしれません。しかし、経験の浅い担当者は「この後は何をすればいいのだろう」と迷うことがあります。
ブループリントを利用すれば、各ステージで必要な入力項目や実施すべきタスクを定義し、決められたプロセスに沿って商談を進められるようになります。
営業品質を標準化し、属人化を防ぐという意味でも、営業コックピットには欠かせない機能です。
つまり、ワークフローが「自動化」を担当し、ブループリントが「業務の進め方」を支える。この二つが土台として機能して初めて、AIが活躍できる環境が整います。
Zia Agentは「最後の判断」を支援する
ここでようやくAIの出番です。
ワークフローやブループリントによって営業活動の基盤が整うと、営業担当は「何をするか」までは迷わなくなります。
しかし、それでも最後に残るものがあります。
それが「判断」です。
例えば、今日フォローすべき案件が5件あるとします。
すべて重要な案件ですが、時間は限られています。
A社を優先すべきなのか、それともB社なのか。
追加提案を行うべきなのか、まずは関係維持を優先すべきなのか。
このような判断は、単純なルールだけでは決められません。
商談の進捗状況、過去の活動履歴、メールでのやり取り、受注金額、顧客との関係性など、さまざまな情報を総合的に見ながら判断する必要があります。
このような場面で活躍するのがZia Agentです。
例えば、営業担当が朝CRMを開くと、Zia Agentが次のように提案してくれるイメージです。
「A社は前回訪問から2週間経過しています。競合他社との比較検討が始まる時期ですので、本日のフォローをおすすめします。」
「B社は過去の受注パターンから見ると、追加提案を行うタイミングです。」
「C社は商談が長期間停滞しています。失注理由を確認した方が良いかもしれません。」
ここで重要なのは、AIが営業担当へ命令しているわけではないということです。
AIは判断材料を整理し、提案を行います。
最終的に行動を決めるのは営業担当です。
だからこそ前回のコラムでもお伝えしたように、「AIでできること」と「AIに任せるべきこと」は同じではありません。
営業活動の主役は、これからも営業担当です。
AIはその隣で、より良い判断を支援するパートナーとして力を発揮します。
営業コックピットは「機能」を設計するものではない
ここまでキャンバス、ダッシュボード、ワークフロー、ブループリント、Zia Agentをご紹介してきました。
それぞれを見ると、まったく異なる機能に見えるかもしれません。
しかし、私たちは個別の機能として設計することはありません。
まず考えるのは、「営業担当は朝CRMを開いてから最初の10分間をどのように過ごすべきか」ということです。
ダッシュボードで今日の状況を確認する。
キャンバスで担当している商談の状況を把握する。
ワークフローによって自動作成されたタスクを確認する。
ブループリントに従って商談を進める。
そしてZia Agentから優先順位や提案を受け取り、その日の行動を決める。
これらが一連の流れとして自然につながっている状態こそ、私たちが考える営業コックピットです。
AIだけを導入しても営業コックピットは完成しません。
キャンバスだけでも、ワークフローだけでも同じです。
それぞれが役割を理解し、一つの仕組みとして機能して初めて、「営業担当が使いたくなるCRM」が生まれます。
Zoho CRMには多くの機能があります。
だからこそ、「どの機能を使うか」ではなく、「営業担当にどのような体験を提供したいのか」を起点に設計することが重要です。
営業担当が毎朝自然とCRMを開き、迷うことなく一日をスタートできる。
そのような環境を実現することが、営業コックピットの目的なのです。
ワックアップは、横浜・沖縄を拠点に、中小企業・店舗のデジタル化を支援するDXソリューションカンパニーです。
特に沖縄地域においては、クラウド活用や情報共有基盤の整備、顧客データ活用など、地域企業に寄り添ったDX支援にも積極的に取り組んでいます。
ポイント統合・交換サービス「Point Hub」、会員アプリ「ワックアプリ」、LINE公式アカウント連携サービス「LINE Hub」、など、顧客とのつながりを深める独自のサービスを提供しています。
また、Zoho公式パートナーとして、CRM(顧客管理)やマーケティングオートメーションを中心とした「Zoho導入・運用支援」も行い、企業の業務効率化や情報基盤整備、データ活用をサポートしています。
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